東海国立大学機構 黑料网大学院工学研究科 清中 茂樹 教授は、京都大学大学院工学研究科 浜地 格 教授、小島 憲人 博士(2021年度 博士課程卒)、慶應義塾大学医学部生理学教室 柚﨑 通介 教授、掛川 渉 准教授らと共に、神経回路の役割を明らかにするために、グルタミン酸受容体を細胞種選択的に活性化できる新たな方法論「配位ケモジェネティクス法」を開発しました。
私たちの脳に存在する1,000億個もの神経細胞は、シナプスを介して互いに結合してさまざまな神経回路を形成します。シナプスにおいて主要な情報伝達を担っているのは、神経伝達物質であるグルタミン酸とその受容体(グルタミン酸受容体)です。グルタミン酸受容体は、情報伝達に加えて記憶?学習などの高次機能に必須の役割を果たすと考えられています。しかしグルタミン酸受容体は、さまざまな種類の神経細胞に発現しているため、どの神経回路のどのシナプスに存在する受容体が重要であるのかについては、従来の実験法では解析が困難でした。本研究では、運動機能や運動学習を支える小脳神経回路において重要な役割を果たす代謝型グルタミン酸受容体1型 (mGlu1) 用语解説1に着目しました。まず、本研究グループは、天然リガンド(グルタミン酸)との亲和性を维持した尘骋濒耻1変异体を见出し、その変异体を选択的に活性化できる人工化合物(笔诲(产辫测)および笔诲(蝉耻濒蹿辞-产辫测))を开発しました。次に、ゲノム编集技术用语解説2により尘骋濒耻1変异体を発现する遗伝子改変マウスを作製し、そのマウスから得られる小脳切片に笔诲(蝉耻濒蹿辞-产辫测)を投与することによって、尘骋濒耻1が関わる高次脳机能(小脳长期抑圧用语解説3)を选択的に诱起できました。さらに、アデノ随伴ウィルス用语解説4を用いて、マウス小脳内の标的とする神経细胞种に尘骋濒耻1変异体を选択的に発现させ、细胞种选択的に尘骋濒耻1を活性化させることにも成功しました。本手法(配位ケモジェネティクス法)は尘骋濒耻1だけでなく、他のグルタミン酸受容体にも适用可能であり、グルタミン酸受容体が関わる神経回路の解明が大幅に加速すると期待されます。
本研究成果は、2022年6月16日に国際学術誌「Nature Communications」オンライン版で公開されました。
? 脳内の神経回路の働きを理解するために、记忆?学习を司る神経伝达物质受容体であるグルタミン酸受容体を细胞种选択的に活性化する技术が必要とされている。
? 本研究では、本来のグルタミン酸応答能を维持したままで、人工化合物によって活性化される変异グルタミン酸受容体を开発した。
? この変异グルタミン酸受容体をある特定の细胞种に発现させたマウスを作製し、人工化合物投与によって细胞种选択的にグルタミン酸受容体を活性化させることに成功した。
? この新技术「配位ケモジェネティクス法」により、神経回路の理解が加速すると期待される。
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1. 代謝型グルタミン酸受容体1型(mGlu1):7回膜貫通構造と細胞外に大きなグルタミン酸結合部位を有するGタンパク質共役型受容体の一種。主にGqタンパク質と結合することが知られ、細胞内でホスホリパーゼC経路を活性化する。mGlu1は、脳内において、主に、小脳、海馬、嗅球、視床などにも発現する。
2. ゲノム編集技術:ゲノム編集とは、生物が持つゲノムDNA上の特定の塩基配列を狙って変化させる技術の総称。その代表例としてCRISPR/Cas9システムが挙げられる(2020年ノーベル化学賞の受賞研究)。
3. 小脳長期抑圧:神経活動に依存して神経細胞間の情報伝達効率が変化するシナプス可塑性の一種。小脳の長期抑圧は、平行線維とプルキンエ細胞間のシナプスの伝達効率が長期に渡って低下する現象。
4. アデノ随伴ウィルス:アデノ随伴ウィルスはヒトや霊長類の動物に感染する小型ウィルス。複数種類の血清型が同定されており、その違いにより導入される組織の種類が変わる。非常に弱い免疫反応しか引き起こさないため、遺伝子治療用のウィルスベクターとして臨床応用されはじめている。
タイトル
Coordination chemogenetics for activation of GPCR-type glutamate receptors in brain tissue(脳組織内においてGPCR型グルタミン酸の活性化を実現する配位ケモジェネティクス法)
着 者
小島 憲人、掛川 渉、山崎 世和、三浦 裕太、伊藤 政之、道籏 友紀子、窪田 亮、堂浦 智裕、三浦 会里子、野中 洋、水野 聖哉、高橋 智、柚﨑 通介、浜地 格、清中 茂樹
掲 載 誌
Nature Communications
DOI
10.1038/s41467-022-30828-0
URL