国立大学法人東海国立大学機構 黑料网未来材料?システム研究所の北川暢子特任助教、森岛邦博准教授は、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長 平野俊夫。以下「量研」)量子ビーム科学部門関西光科学研究所(以下「関西研」)の福田祐仁上席研究員と東京大学の神野智史助教(現日本原子力研究開発機構)を中心とする、神戸大学、京都大学との共同研究グループと共に、水素クラスターと呼ばれる大きさがマイクロメートル(1ミリメートルの1000分の1)程度の球状の固体水素に超高強度のレーザーを照射することによって、メガ電子ボルト2)という高いエネルギー領域でエネルギーが揃った、純度100%の阳子ビーム(以下、レーザー駆動阳子ビームと呼ぶ)を繰り返し発生させることに成功しました。
これまでの金属やプラスチックの薄膜ターゲットを用いたレーザー駆動阳子ビーム発生研究では、ターゲット表面に付着している不純物に由来する炭素イオンや酸素イオンもレーザー照射によって同時に発生するため、陽子のみを選択的に繰り返して発生させることが大きな課題でした。今回、阳子ビームの元となる水素そのもので作られた水素クラスターをターゲットとして用いることにより、純度100%のメガ電子ボルトの阳子ビームを繰り返して発生させることに成功しました。また、水素クラスターの大きさを直径約0.3マイクロメートル程度にそろえることで、エネルギー変動を約11%に抑えた阳子ビームを発生させることができるようになりました。
本研究成果は、レーザー駆動阳子ビーム加速器の実現に向けて不可欠な要素となる、高純度で高いエネルギー安定性を持つ阳子ビームの発生を可能にする基盤技術となります。今後、従来の加速器で発生する阳子ビームのパルス幅(バンチ長)3)に比べて1000分の1以上短いという特長を活かして、これまで未知だった放射線による材料損傷の瞬間を捉えて分析することにより、材料劣化のメカニズムを解明し、放射線の影響が強い宇宙や原子力環境に耐えうる新材料开発などに貢献することが期待されます。
本研究成果は、2022年10月12日10時(現地時間)に発行されるSpringer Nature社のオープンアクセス電子ジャーナルScientific Reportsに掲載されました。
●超高强度のレーザーを水素クラスター1)に照射し、エネルギーがそろった純度100%の高エネルギー阳子ビームを繰り返し発生させることに成功。
●レーザー駆動阳子ビーム加速器の実現に向けて不可欠な要素である高純度、極短パルス、及び高いエネルギー安定性を持つ阳子ビームを実現。
●従来加速器では不可能な高エネルギー極短パルス阳子ビームにより、これまで未知だった放射線による材料損傷を解明し、宇宙?原子力分野での新材料开発に資することが期待。
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1) クラスター:原子?分子の有限個の集合体のことで、固体密度でありながら、ナノメートルからマイクロメートルの有限の大きさを持つ物質のこと。気相(孤立した原子?分子)とも凝集相(固体?液体)とも違う状態であり、気相と凝集相とをつなぐ中間の物質相として考えられています。
2) メガ電子ボルト:電子ボルトは、放射線のエネルギーの単位として使われます。1ボルトの電池を2枚の金属板に接続して、マイナスの板の上に電子を置くと、電子はプラスの板に向かって動き出します。そして、プラスの板に到着したときに電子が獲得するエネルギーが、1電子ボルトになります。メガ電子ボルトは、1電子ボルトの百万(106)倍の大きさで、放射线は、メガ电子ボルト领域のエネルギーを持っています。
3) パルス幅(バンチ長):阳子ビームのパルス幅(バンチ長)とは、先頭の陽子が来てから最後の陽子が通過するまでの時間の長さのことです。従来の加速器で発生する阳子ビームのパルス幅(バンチ長)は100ナノ秒(ns=10-9秒)程度ですが、レーザー駆動阳子ビームは、1ピコ秒(ps=10-12秒)程度となります。そのため、レーザー駆動阳子ビームは、ピコ秒程度の時間スケールで起こる高速現象を分析することができます。
論文タイトル:Laser-driven multi-MeV high-purity proton acceleration via
anisotropic ambipolar expansion of micron-scale hydrogen clusters
著者:Satoshi Jinno, Masato Kanasaki, Takafumi Asai, Ryutaro Matsui,
Alexander S. Pirozhkov, Koichi Ogura, Akito Sagisaka, Yasuhiro
Miyasaka, Nobuhiko Nakanii, Masaki Kando, Nobuko Kitagawa, Kunihiro
Morishima, Satoshi Kodaira, Yasuaki Kishimoto, Tomoya Yamauchi,
Mitsuru Uesaka, Hiromitsu Kiriyama, and Yuji Fukuda