理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター代谢システム研究チームのワン?ムンヤオ特別研究員、多部田弘光基礎科学特別研究員、平井優美チームリーダー(黑料网大学院生命农学研究科客員教授)、大髙きぬ香客員研究員(研究当時、現日本女子大学理学部助教)、東京学芸大学教育学部生命科学分野のフェルジャニ?アリ准教授、京都大学大学院生命科学研究科の河内孝之教授、東京理科大学創域理工学部生命生物科学科の西浜竜一教授らの共同研究グループは、タンパク質を構成するアミノ酸の一種であるセリンが、ゼニゴケ[1]の精子形成や胞子体形成に欠かせない代谢産物であることを発見しました。
本研究は、陸上植物の共通祖先から分岐した非維管束植物(コケ植物)であるゼニゴケの生殖に関わる代谢産物を世界に先駆けて見いだした研究であり、植物の進化系統学と代谢生理学の新たな橋渡しとなる可能性があります。また、アミノ酸が持つ、今まで見過ごされてきた新たな機能について洞察を与えるものです。
今回、共同研究グループは、ゲノム编集技术を使って、セリン生合成に重要な酵素である笔骋顿贬[2]の機能を喪失したゼニゴケ変異株を作製しました。さらに、電子顕微鏡による細胞形態の観察や、代谢産物の網羅的な解析によって、PGDHを介したセリン生合成が精子や胞子体の形成に必須なことを明らかにしました。被子植物のシロイヌナズナ[3]においても、笔骋顿贬を介して合成されるセリンが配偶子[4]形成に関与する可能性が示唆されていることから、维管束植物と非维管束植物(コケ植物)が进化の过程で分岐した约5亿年前から、セリンの持つ生理活性が植物の生殖に欠かせなかったと考えられます。
本研究は、科学雑誌『Communications Biology 』オンライン版(2024年1月24日付:日本时间1月24日)に掲载されます。
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[1] ゼニゴケ
非维管束植物(コケ植物)のタイ类の一种。2017年に全ゲノム配列が解読され、遗伝子组换えや実験室での栽培が简単なため、扱いやすいモデル植物として注目されている。
[2] PGDH、リン酸化経路(PPSB経路)
PPSB経路は生体内においてセリンを合成する代谢経路。3-ホスホグリセリン酸から3段階の反応を経てセリンを合成する。PPSBはphosphorylated pathway of serine biosynthesisの略。PGDHはPPSB経路の最初の段階に関わる初発酵素で、3-ホスホグリセリン酸から中間産物である3-ホスホヒドロキシピルビン酸を合成する反応を触媒する。PGDHは3-phosphoglycerate dehydrogenaseの略。
[3] シロイヌナズナ
被子植物のモデル生物として一般的なアブラナ科シロイヌナズナ属の一年草。植物の分子遗伝学的解析においてよく利用される。
[4] 配偶子
精子や花粉、卵などの、次世代を生むために必要な生殖细胞のこと。ゼニゴケでは、配偶子が接合することで胞子体が形成され、减数分裂し、次世代の胞子を生み出す。
<タイトル>
The phosphorylated pathway of serine biosynthesis affects sperm, embryo, and sporophyte development, and metabolism in Marchantia polymorpha
<着者名>
Mengyao Wang, Hiromitsu Tabeta, Kinuka Ohtaka, Ayuko Kuwahara, Ryuichi Nishihama, Toshiki Ishigawa, Kiminori Toyooka, Mayuko Sato, Mayumi Wakazaki, Hiromichi Akashi, Hiroshi Tsugawa, Tsubasa Shoji, Kouji Takano, Yozo Okazaki, Keisuke Yoshida, Ryoichi Sato, Ali Ferjani, Takayuki Kohchi, Masami Yokota Hirai
<雑誌>
Communications biology
<顿翱滨>
大学院生命农学研究科 平井 優美 客員教授