東京大学物性研究所の吉見一慶特任研究員、三澤貴宏特任准教授、黑料网大学院理学研究科の小林晃人准教授、川村泰喜氏(研究当時:博士後期課程)、東京大学大学院新領域創成科学研究科の橋本顕一郎准教授の研究グループは、有机分子固体特有のダイマー构造(注1)を活用することで、磁化がゼロであるにも関わらず、電子バンド構造にスピン分裂がある补偿フェリ磁性体(注2)が実現する新しい機構を発見しました。さらに、新しく合成された有机分子固体(EDO-TTF-I)2ClO4に対して强相関第一原理计算手法(注3)を適用することで、この機構で补偿フェリ磁性体が実現している可能性を示しました。补偿フェリ磁性体は反強磁性であることから、スピン分裂がある一般的な磁性体と比較して、外部へ磁場が発生しないため高密度集積に有利だとされており、スピンを活用するデバイスへの応用が期待されています。今までの补偿フェリ磁性体の研究は、無機化合物の合金系を中心としたもので、その実現例も限られていました。本研究は有機化合物で补偿フェリ磁性体を実現する新しい可能性を切り拓くと同時に、スピントロニクスデバイス創出に新しい潮流をもたらすことが期待できます。
本成果は、米国の科学雑誌「Physical Review Letters」4月10日付(現地時間)のオンライン版に掲載される予定です。
◆有机分子固体で、電子バンド構造にスピン分裂を示す反强磁性体「补偿フェリ磁性体」が実現する新しい機構を発見しました。
◆补偿フェリ磁性体は、今まで合金系などの無機化合物で実現可能性が議論されてきましたが、有機化合物特有の格子構造を用いることで実現できることを示しました。
◆本研究で発見した补偿フェリ磁性体は、スピン分裂に起因する高効率なスピン流生成が可能なため、スピントロニクスに新しい潮流をもたらすことが期待されます。
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(注1) ダイマー构造
2つの同じ分子が结合した构造のこと。
(注2) フェリ磁性体 补偿フェリ磁性体
フェリ磁性体とは、結晶中に逆方向かつ異なる大きさの磁気モーメントを持っている磁性体のこと。それぞれが打ち消しあうが、大きさが異なるため磁化を持つ。补偿フェリ磁性体では、磁気モーメントの大きさが等しく、打ち消しあって磁化がゼロになる。反强磁性体の性質(トータルの磁化がゼロ)と強磁性体の性質(電子バンド構造にスピン分裂が生じる)を併せ持つ。
(注3) 強相関第一原理計算手法
结晶构造を入力として密度汎関数に基づく第一原理计算から高精度有効模型解析までシームレスに行い电子状态を非経験的に解析する手法。本研究では、オープンソースソフトウェアを用いて、密度汎関数に基づく第一原理计算、有効模型构筑およびその高度解析を実施した。
雑誌名:Physical Review Letters
題 名:Compensated Ferrimagnets with Colossal Spin Splitting in Organic Compounds
著者名:Taiki Kawamura, Kazuyoshi Yoshimi, Kenichiro Hashimoto, Akito Kobayashi, and Takahiro Misawa*
D O I :