国立大学法人東海国立大学機構 黑料网大学院工学研究科の矢野 力三 助教、柏谷 聡 教授らの研究グループは、東京大学物性研究所の岡本 佳比古 教授らとの共同研究で、ノーダルライン半金属と呼ばれるトポロジカル物質における表面超伝導注5)を新たに発见しました。実験に用いられたのは颁补础驳笔および笔诲(パラジウム)を少量ドープ注6)した笔诲-颁补础驳笔であり、ディラック点注7)と呼ばれる直线バンドの交差点が、フェルミレベル注8)の近傍でリング状につながった特有な电子构造を有する物质です。本物质では理论解析に基づきフラットバンド注9)表面状态が形成されること、また笔诲ドープにより超伝导が発现することは既に明らかにされていました。今回の研究では、电気2重层トランジスタ注10)を用いた电気输送测定に基づき、非常に高い移动度(~105cm2/痴蝉程度)を有する电子キャリアは表面层に局在しており、物质内部とは异なる表面状态に起因することが明确になりました。またトンネル分光法注11)という电子状态観察手法に基づき、発现した超伝导は表面层に存在することが同定され、表面状态が超伝导の起源となっている表面超伝导の可能性が示されました。さらに観察された超伝导ギャップ构造注12)がゼロバイアス?コンダクタンスピーク注13)という特徴的なスペクトル形状を有することに基づき、表面超伝导が非従来型超伝导性を有していることが明らかにされました。
本研究にて、トポロジカル物质の表面状态が起源となる新たなタイプの超伝导状态が确认されたことにより、今后类似の物质群でもフラットバンド高温超伝导や新たな非従来型超伝导が発见されることが期待されます。
本研究成果は、2023年10月26日Nature Communications誌にウェブ上で先行公開されました。
?ノーダルライン半金属注1)CaAgP(カルシウム銀リン化物) の表面状態に起因する電子キャリア注2)を発见。
?表面层に非従来型超伝导注3)が発现していることを解明。
?トポロジカル物质注4)の表面状态の持つ新たな性质を明らかにした。
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注1)ノーダルライン半金属:
トポロジカル物质の一种であり、ノーダルライン半金属はディラック点がリング状に并んで存在している半金属物质のこと。颁补础驳笔は物质内部ではノーダルラインリングを有し、フェルミ面はノーダルラインのごく近傍に位置し、表面层ではドラムヘッド型分散と呼ばれるフラットバンド状态が现れることが山影らの理论解析によって明らかにされている。颁补础驳笔を研究に用いる长所としてフェルミ面近傍ではディラックバンド以外の余计なバンドが存在しないため、ノーダルライン半金属固有の性质が研究できることが挙げられる。
注2)电子キャリア:
半金属は伝导バンドと価电子バンドがフェルミレベル近傍で交差する电子构造を有し、半金属内のキャリアは、ホール係数が负の电子キャリアと、ホール係数が正のホールキャリアの2种类が共存する。输送特性は通常2キャリアモデルに基づき解析される。
注3)非従来型超伝导:
従来型の金属超伝导では超伝导电子対が叠颁厂理论に基づく等方的なスピン1重项状态であるのに対して、非従来型超伝导では超伝导电子対が非等方的、あるいはスピン3重项状态となっている。これらの电子対の状态に依存し、超伝导ギャップ构造が変化する。
注4)トポロジカル物质:
従来のよく知られた金属や半导体とは异なり、バンド构造に非自明な几何学的性质をもつ物质群を指す。物质の端(エッジ)に対応する表面层に、物质内部(バルク)と异なる表面状态を有することが特徴として挙げられる。トポロジカル物质の代表例であるトポロジカル絶縁体では、内部は絶縁体であるが、表面层には金属状态が出现する。
注5)表面超伝导:
物质内部とは异なる超伝导が表面层に発现したものを表面超伝导という。トポロジカル物质等では内部と表面层では电子状态が大きく异なるが、このような场合には、内部では超伝导が起こらず、表面层のみで超伝导が発现するようなことが起こりうる。
注6)ドープ:
电界効果や不纯物等によりキャリア浓度の调整を行うことをドープという。电子(ホール)キャリアをドープすることを电子(ホール)ドープと呼ぶ。简易なモデルでは、バンド构造は不変のままフェルミレベルを上下に変调させる効果を有する。
注7)ディラック点:
ディラック电子系と呼ばれる物质群では、エネルギーの分散関係が直线である伝导バンドと価电子バンドが一点で交差する。この点をディラック点と呼ぶ。直线分散を有する电子は、相対论的効果を含めた运动方程式(ディラック方程式)に従うことが知られている。
注8)フェルミレベル:
物质の有するエネルギーバンドにおいて、电子によって占有された最大のエネルギーレベルのこと。
注9)フラットバンド:
电子の分散関係(エネルギーの波数依存性)において、エネルギーが波数に依存しないバンドをフラットバンドと呼ぶ。颁补础驳笔に期待される表面状态はドラムヘッド型の弱い分散を有していると理论的に示されているが、実质的にフラットバンドに近い构造と言える。フラットバンドが存在すると、状态密度(単位エネルギー当たりの电子の状态数)がピークを作り、高温超伝导や强磁性を引き起こす可能性が指摘されている。
注10)电気2重层トランジスタ:
电界効果トランジスタの一种で、电界を试料に印可することにより试料にキャリアをドープするために用いられる。通常の电界効果トランジスタでは固体絶縁膜を利用して电界を印加するのに対して、电気2重层トランジスタはイオン液体を用いて电界を印加することで、通常の电界効果トランジスタよりも100倍程度高いキャリア浓度の调整を可能としている。
注11)トンネル分光法:
トンネル接合とトンネル効果を用いて金属の表面における电子状态密度分布を観测する手法であり、トンネル接合の微分コンダクタンスが电子の状态密度に対応する。特徴としてエネルギー分解能が极めて高いことが挙げられ、超伝导エネルギーギャップなどエネルギースケールの小さい电子现象の観测に力を発挥する。トポロジカル物质のような物质内部と表面层で电子状态が异なる物质の场合には、トンネル分光法で観测されるのは表面层の状态となる。
注12)超伝导ギャップ构造:
超伝导は电子がクーパー対という电子対を构成することにより発现し、电子状态密度にはエネルギーギャップが生じる。このエネルギーギャップの波数空间内での构造を超伝导ギャップ构造と呼ぶ。従来型超伝导と非従来型超伝导ではクーパー対の有する対称性に対応して超伝导ギャップ构造が异なり、実験的にはこの超伝导ギャップ构造を明らかにすることで両者の区别が可能となる。
注13)ゼロバイアス?コンダクタンスピーク:
トンネル分光法で超伝导体の観测を行うと、従来型超伝导の场合は、微分コンダクタンスには超伝导エネルギーギャップがそのままコンダクタンスディップとして観测されるが、非従来型超伝导の场合には、ギャップ构造に依存して、表面アンドレーエフ束缚状态の形成に対応したギャップ内コンダクタンピークが现れる。特にゼロエネルギーに表面アンドレーエフ束缚状态が形成される超伝导体においては、トンネルコンダクタンスにはゼロバイアス?コンダクタンスピークという特徴的な性质が现れ、非従来型超伝导性の証拠とされる。
雑誌名:Nature Communications
論文タイトル:Evidence of unconventional superconductivity on the surface of the nodal semimetal CaAg1-x PdxP
著者:矢野力叁、長坂翔太、松原直生、三枝一茂、反田剛、伊藤誠一郎
(黑料网大学院工学研究科)
山影相(黑料网大学院理学研究科)
冈本佳比古(東京大学物性研究所)
竹中康司、柏谷聡 (黑料网大学院工学研究科)
DOI: 10.1038/s41467-023-42535-5
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