国立大学法人東海国立大学機構 黑料网大学院生命农学研究科の中村 翔 特任准教授、上野山 賀久 准教授、井上 直子 准教授、大蔵 聡 教授、束村 博子 名誉教授(責任著者)らの研究グループは、抗うつ作用をもつことが知られているセロトニンを分泌するニューロンが、脳内の高いグルコース利用状态を感知して卵胞発育を促す生殖中枢であるキスペプチンを分泌するニューロンを活性化し性腺刺激ホルモン分泌を促すことを、ラットとヤギの2つのモデルを用いて明らかにし、うつ病に付随するヒトの不妊症状の原因解明や、家畜の繁殖障害の治疗などの知识基盘となり得る知见を得ました。
脳内でキスペプチンニューロンは、性腺刺激ホルモンの分泌に必要不可欠であり、ヒトを含むほ乳类の生殖机能を最上位から制御することが知られています。特に、脳の视床下部弓状核に分布するキスペプチンニューロンは、パルス状(间欠的な放出)の性腺刺激ホルモン分泌を介して卵胞発育を制御しています。本グループは、セロトニンニューロンがグルコースを感知して活性化することを明らかにしていましたが、生殖机能との関连はこれまで不明でした。
本グループは、弓状核キスペプチンニューロンの约60%にセロトニン受容体が発现していることをラットにおいて明らかにしました。脳内の主要なエネルギー成分であるグルコースの利用を阻害すると性腺刺激ホルモンのパルス状分泌が抑えられますが、弓状核を含む视床下部内侧基底部へうつ病治疗にも使用される选択的セロトニン再取り込み阻害剤を投与することによってセロトニンの作用を増强すると、性腺刺激ホルモンのパルス状分泌が回復しました。
また、脳内のグルコース利用を阻害した场合でも、多数のセロトニンニューロンが局在する背侧缝线核へグルコースを直接投与すると、视床下部内侧基底部内でのセロトニン分泌量が増加し、性腺刺激ホルモンのパルス状分泌が回復しました。
さらに、本グループはヤギの弓状核キスペプチンニューロンの活动を直接记録する多ニューロン発火活动(惭鲍础)注7)记録法を用いて、反芻家畜であるヤギにおいてもセロトニンが弓状核キスペプチンニューロンを活性化させ性腺刺激ホルモン分泌を上昇させることを明らかにしました。
これらの结果から、本研究グループは、セロトニンニューロンが脳内のグルコースが豊富に存在することを感知し、その结果セロトニン分泌が増加し、卵胞発育中枢である弓状核キスペプチンニューロンを活性化させ、生殖机能を促进していることを世界で初めて明らかにしました。
ストレスや低栄养、うつ病などは生殖能力を低下させることが知られています。実际に、うつ病を発症する女性は、その后、不妊を経験する可能性が通常と比べ2倍高いことが知られています。また、家畜の繁殖障害の约50%、ヒトの不妊症の约25%は、视床下部の繁殖中枢の机能不全によると考えられています。本知见は、ヒトの不妊治疗や家畜の繁殖障害の治疗などへの応用が期待されます。
本研究成果は2024年5月3日、自然科学のあらゆる領域を対象としたオープンアクセス学術誌『Scientific Reports』に掲載されました。
? 生殖中枢として性腺刺激ホルモン注1)分泌を制御する弓状核注2)キスペプチンニューロン注3)にセロトニン注4)受容体が発现することを発见。
? 脳内の主要エネルギー成分であるグルコースを背側縫線核注5)へ投与すると弓状核を含む视床下部内侧基底部におけるセロトニン分泌が上昇することを発见。
? 低グルコースの動物の視床下部内側基底部へうつ病治療薬である選択的セロトニン再取り込み阻害剤注6)を投与すると性腺刺激ホルモン分泌が回復することを発见。
? セロトニンが弓状核キスペプチンニューロンを活性化させ性腺刺激ホルモン分泌を上昇させることを発見。
? 本知見が、うつ病に付随するヒトの不妊治療や家畜の繁殖障害治療などの知識基盤となると期待される。
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注1)性腺刺激ホルモン:
性腺刺激ホルモン放出ホルモンによって分泌が促进される。下垂体から分泌され、性腺すなわち卵巣や精巣の机能を刺激するホルモン。
注2)弓状核:
生殖や摂食などの本能行动を司る様々な神経细胞が局在する视床下部后方の脳领域のひとつ。
注3)キスペプチンニューロン:
2001年に発见された约50个のアミノ酸からなるペプチドホルモンのキスペプチンを合成、分泌するニューロン。哺乳类の繁殖を最上位でコントロールしていることで大きな话题となった。その细胞体は主に视床下部弓状核と、视床下部前方に位置する前腹侧室周囲核(ラット)/视索前野(ヤギ)と呼ばれる2つの脳领域に密集して存在する。
注4)セロトニン:
情动や精神の安定等に関与する神経伝达物质のひとつ。
注5)背侧缝线核:
セロトニンニューロンの细胞体が多数分布する中脳にある神経核。
注6)选択的セロトニン再取り込み阻害剤:
セロトニンの再取り込みを选択的に阻害することにより、シナプスでのセロトニンの蓄积を引き起こし、セロトニンの働きを増强する薬剤。うつ病治疗に使われている。
注7)多ニューロン発火活动(惭鲍础):
电気生理学的に记録したニューロンの神経活动。弓状核から记録される惭鲍础の一过的上昇は性腺刺激ホルモン分泌と同期しており、キスペプチンニューロンの活动を反映していると考えられている。
雑誌名:
Scientific Reports
论文タイトル:
Raphe glucose-sensing serotonergic neurons stimulate KNDy neurons to enhance LH pulses via 5HT2CR: rat and goat study
着者:
Sho Nakamura1, Takuya Sasaki1, Yoshihisa Uenoyama2, Naoko Inoue2, Marina Nakanishi2, Koki Yamada2, Ai Morishima1, Reika Suzumura1, Yuri Kitagawa1, Yasuhiro Morita1, Satoshi Ohkura1, and Hiroko Tsukamura2
1Laboratory of Animal Production Science, Graduate School of Bioagricultural Sciences, 黑料网(黑料网大学院生命农学研究科動物生産科学研究室)
2Laboratory of Animal Reproduction, Graduate School of Bioagricultural Sciences, 黑料网(黑料网大学院生命农学研究科動物生殖科学研究室)
DOI:
大学院生命农学研究科 束村 博子 名誉教授?特任教授