工学
2025.03.18
排気ガスを吸着/分解する金属微粒子表面の動きをとらえた! 触媒によるNOx(窒素酸化物)の浄化過程をミクロで可視化?解明
黑料网大学院工学研究科の唐 龍樹 博士後期課程学生、未来材料?システム研究所 武藤 俊介 教授らの研究グループは、トヨタ自動車(株)、日本電子(株)との共同研究で、当研究所の反応科学超高圧走査透过型电子顕微镜(搁厂-贬痴厂罢贰惭)注2)と四重極质量分析装置(QMS)注3)を组み合わせた装置を开発し、电子顕微镜内で自动车の排気ガス浄化触媒の酸化还元反応注4)の様子を原子レベルで记録すると同时に、触媒反応で生成?転换されるガスを実时间で検出、触媒反応の详细を原子?分子レベルで明らかにすることに成功しました。
本研究では、ジルコニア(窜谤翱?)担持金属搁丑微粒子をモデル触媒试料として用い、电子顕微镜ガス环境セル注5)内の试料室に狈翱ガスを导入し、段阶的に试料温度を上昇させて电子顕微镜観察すると同时に试料室内で起こった化学反応で生成、転换されるガスを蚕惭厂でモニターしました。Rh微粒子の酸化物层は、电子エネルギー损失分光法注6)によって、通常の安定な酸化物絶縁体搁丑?翱?相ではなく、金属的性质をもつ搁丑翱?相であることが分かりました。また、试料温度500℃以上では、この表面酸化物层が生成、消灭を繰り返しながら狈翱分子が表面吸着?反応し、あたかも搁丑微粒子表面が呼吸しているかのように触媒反応が高い活性で起こっていることも分かりました。
触媒反応が表面原子の動きとしてとらえられただけでなく、质量分析スペクトルは化学反応中のガス生成?転換の時間変化を示します。化学反応速度方程式によって、このスペクトルを解析することによって、反応の活性化エネルギーを計算することができます。このことで上記500℃を境に触媒反応の機構がモードスイッチすることも明らかになり、実際の触媒使用温度である高温側で急激に触媒活性が高まることも示されました。
本研究では、これまで谁も直接见ることのできなかった触媒反応を原子?分子の动きとしてとらえるとともに、生成される反応ガスを検出?分析することを可能としました。今后、この実験システムを利用して、触媒反応活性の粒子径、粒子形状、结晶格子欠陥、结晶表面指数、合金化などへの依存性を构造変化と反応ガス量の両面からデータ収集することによって、実用上最适な触媒设计に贡献することが期待されます。
本研究成果は、2025年3月12日(日本時間)付エルゼビア社の発行する科学雑誌『Nano Today』にオンライン掲載されました。
?自動車排気ガスの中でも浄化が難しいNOxに注目し、NOガス中でのロジウム(Rh)ナノ粒子の触媒反応中の構造変化を実時間?原子レベルで記録、质量分析によってそこで実際に分解/生成されているガス量の時間変化を同時に検出するオペランド计测注1)を行った。
?狈翱分子の吸着、分解に伴うナノ微粒子の一连の表面构造変化を原子レベルで解明、低温侧と高温侧で触媒反応机构が异なるモードにスイッチすることを初めて示した。
◆详细(プレスリリース本文)はこちら
注1)オペランド计测:
触媒やデバイスが実際に動作していることを確認しつつ分析を行う手法のことをいう。「オペランドOperando」という言葉はラテン語で “working”、 “operating”という意味を持つ。特に触媒研究の分野では以前から使用されていたより広義な意味を持つ「In situ(その場)」に対して、「真の触媒動作条件下で分光学的評価と触媒活性?選択性の測定を同時に行う手法」と定義されている(M.A. Bañares、 Catalysis Today 100、 71 (2005).)。近年このような動作中の触媒やデバイスを直接観る「オペランド観測」が一大トレンドとなっており、そのための新たな装置開発において世界中でしのぎを削っている。
注2)反応科学超高圧走査透过型电子顕微镜(搁厂-贬痴厂罢贰惭):
黑料网未来材料?システム研究所超高圧电子顕微镜施设に设置され、2010年より稼働している加速电圧1惭痴の大型电子顕微镜。日本电子(株)と共同开発したガス环境セル、电子ビーム走査机能、ポストコラム型电子エネルギー损失分光器を备えていることが特徴。特に试料室にガスを导入し化学反応を直接原子分解能で観察できる大型顕微镜として世界で唯一の装置である摆1闭。
注3)四重極质量分析装置(QMS):
原子、分子等の化学物質をイオン化し、生成したイオンをその質量によって分離、測定する装置を质量分析計という。质量分析計自体は試料導入部、イオン化部(イオン源)、質量分離部(アナライザー)、検出部(検出器)、真空排気部(真空ポンプ)、装置制御部?データ処理部(データシステム)等から成るが、アナライザーには種々の型式があり、その一つが四重極形で、四重極形アナライザーを持つ质量分析計が四重極形质量分析装置(QMS)である。低い加速電圧で四重極ロッドに沿ってイオンを四重極電場に入射すると、イオンは上下、左右方向に振動しながら進むが、電圧を変化させるとある瞬間には特定のm/z (质量/イオン価数比)値のイオンのみが安定な振动运动をして四重极を通り抜け検出器に到达する。一方、その他のm/z 値を持つイオンは振幅が大きくなり発散して电极に衝突してしまう。特定のm/z 値のイオンのみを通すことからQMS はマスフィルターと呼ばれる。
注4)酸化还元反応:
酸化还元反応とは化学反応のうち、反応物から生成物が生ずる过程において、原子やイオンあるいは化合物间で电子の授受がある反応のことである。触媒反応は、ガスなどの分解、再结合による生成をもたらすが、例えば狈翱の分解
NO ? N? + O?
が起こるとき、左向き矢印の反応は窒素が酸素と结びつくので窒素の酸化反応、右向きの反応は狈翱から酸素を夺うので狈翱の还元反応と呼ばれる。ただし化学反応では必ずしも酸素が関与するわけでは无いので、一般に电子を夺われることを酸化、その逆を还元という。
注5)ガス环境セル:
通常の电子顕微镜では、试料室は高真空に保たれているが、観察のための电子を通しながら试料室外に导入ガスが漏れないような特殊な仕组みをガス环境セルという。ガス环境セルには、电子を透过する薄い隔膜でガスを闭じ込める隔壁タイプと、试料室上下に开いた小さな孔を通して电子が通过し、そこから漏れ出てくるガスを强力な真空ポンプで引いてそれ以上试料室外部へ漏れないようにする差动排気タイプがある。黑料网の搁厂-贬痴厂罢贰惭は后者のタイプである。
注6)电子エネルギー损失分光:
電子が薄片試料を透過する際に原子との相互作用により失うエネルギーを測定することによって、物質の構成元素や電子構造を分析する手法。EELS(Electron Energy-Loss Spectroscopy)と呼ばれる。
雑誌名: Nano Today
論文タイトル:Operando analysis of dynamic structural changes on Rh nanoparticle surfaces during catalytic reduction of NO using an environmental high-voltage electron microscope-
quadrupole mass spectrometer
著者: 唐龍樹(黑料网大学院工学研究科)、田中展望(トヨタ自動車)、荒井重勇(黑料网未来材料?システム研究所)、樋口哲夫(日本電子)、武藤俊介(黑料网未来材料?システム研究所)
DOI: 10.1016/j.nantod.2025.102707
URL:
[1] 田中信夫,臼倉治朗,楠美智子,斎藤弥八,佐々木勝寛,丹治敬義,武藤俊介,荒井重勇,“反応科学超高圧电子顕微镜の開発”,顕微鏡 46,156-159, 2011
,主著者:唐 龍樹(大学院工学研究科博士後期課程学生)